エマニュエル・トッド ー インタビューから新しい時代を想像してみる

エマニュエル・トッド ー インタビューから新しい時代を想像してみる

コロナで鮮明になった中国の脅威 「制御する態勢が必要」エマニュエル・トッド氏が指摘

フランスの学者エマニュエル・トッドのインタビューが米国選挙後の今の国際社会を的確に捉えているようで、面白かったのでまとめてみました。

下のつよしさん動画もトッドのインタビューを分析していて面白かったです。ぜひご覧ください。

 

トッドが指摘していることは、大きく分けると以下のことです。


2.米国でのエリート層の分断
3.エスタブリッシュメント化した米国メディアの独断と、自らが正義だとするエゴ
4.寡頭制に支配されるグローバリズム
5.新しい全体主義vs民主主義の図式
6.中国は歴史的に全体主義的体制が根付いている

現在のアメリカについて

1.米国民主党の提示するアメリカ像は、統合されたアメリカになり得ていない。
2.米国でのエリート層の分断
3.エスタブリッシュメント化した米国メディアの独断と、自らが正義だとするエゴ

米国民主党が支持層とするのは、「高学歴で高収入の寡頭支配層の人たち、高等教育は受けたけれど貧しい白人の若者たち、そして黒人、ヒスパニック系、アジア系の大集団」とトッドは言います。そしてそれだけでは統合された米国を提示できていない。確かにそうですね。西海岸と東海岸に住む米国のいわゆる支配層と、奨学金返済に追われるミレニアルーZ世代、そしてマイノリティー。この集団を繋ぎ、現在の米国を表すものはポリコレやリベラルな平等主義であるのはわかりますが、では西海岸、東海岸の寡頭支配エスタブリッシュメントは、本当にマイノリティや貧しい若者に利権を渡すのでしょうか?

多分民主党のことですから、機会の平等と能力主義によって貧しい若者も、マイノリティもエスタブリッシュメントになる道は開けているという提示の仕方をすると思うのですが、本当でしょうか?BLMに示されるように、60年代の公民権運動以降、本当に黒人のステータスは統計的に上がったのでしょうか?

民主党はGAFAMやメディアからも支持を受けています。選挙期間中続いたメディアのトランプ潰しともいえる偏向報道、トランプ大統領のTwitterアカウント永久凍結などは完全にメディアと巨大SNS企業のエゴ。西海岸、東海岸のエスタブリッシュメントの思想で動くメディアは、アメリカを代表するものとはいえないでしょう。

このツイッターやメディアの事例はある種ディストピアを思わせるもので、政府よりも力を持つ私企業が思想統制を行い、世の中の方向性を決めていく。FBやGoogleの顧客個人情報の蓄積、ビッグデータ分析により政治志向なども分析され、巨大企業が求める方向へ国民を誘導。これはオールドメディアといわれるテレビでは既に興っている問題です。

 

ダボス会議に代表されるグローバルな意思決定

4.寡頭制に支配されるグローバリズム

各国の代表団、世界的なリーダーが集まる会議です。トッドはこう言っています。「そんな民族単位の民主主義はいやだ、普遍的な帝国を支持する、ローマ帝国やワシントン・コンセンサスの方がいい、グローバルなエリートによって統一される世界を支持する、と主張する権利はあります。けれども、そうやって統合された世界は、民主主義ではない。寡頭制です。それを民主主義だと嘘を言ってはいけません。」「あそこに集う人たちは、自分たちこそ最良の世界を代表していると思っているかもしれません。けれど、それが民主主義だという権利はまったくありません。」

EUの利権を握っているEU官僚、国連という組織の中にも巣食う利権構造を思い出しました。国際機関=開かれてて、いいっぽいという稚拙な考えを以前持っていましたが、ブレクジットにも見られる様にEUという「なんとなく良さそうな」団体にも利権や歪んだ権力構造があるのです。ガンダムでいう地球連邦軍にも、ティターンズが出てきちゃう感じですかねー。しかしイギリスの政治史の様に王権と議会との利害関係の調整を長い時間をかけて行い、フランス革命の様な突然の、理想主義的なものを掲げない形での、地道な変革という意味ではEUも国連も正しいのかもしれません。少しづつしか進まないほうが、安定性という意味ではいいのだと思います。しかし間違った方向にゆっくり進むというのでは困る。

そして中国……

5.新しい全体主義vs民主主義の図式
6.中国は歴史的に全体主義的体制が根付いている

ここでトッドが言っているのは、「私たちは挑戦を受けているのです。歴史はひょっとしたら、全体主義国が持っている武器を民主主義国が持ち合わせていないという時代に入りつつあるのかもしれないからです。  ちょっと1930年代に似ています。ヒトラーのドイツや軍国主義の日本、スターリンのソ連など全体主義的国家の方が、態勢が整っていました。うっとうしい話です。今はその違いが当時ほど劇的な意味は持たないでしょう。でも、全体主義国家の方が危機には強そうです。」全体主義と民主主義が戦った時には、同じ国力、同じ軍事力の場合は全体主義国家の方が有利だというデータがあるそうです。

中国は大国ですが、様々な問題があります。特に国内問題。トッドは「だから中国は二つに引き裂かれています。高い学歴を持つすごい数の人材によって世界レベルで行動しながら、国内では不均衡に苛(さいな)まれている。外では大国、内では脆弱(ぜいじゃく)なのです。」と言っていますが、他にもウイグル、チベット、モンゴルなどの自治区の問題、特に海外に多い、漢人でありながら共産党に対立する人々(含む華僑)。

しかし中国の全体主義とAIやビッグデータというテクノロジーは相性がいいようです。このテクノロジーによる国民統制、また社会の利便性を高めたり、新しい価値観も想像もしています。労働力の面では、つよしさんも指摘している様に、15%のエリート層と85%の安い賃金で働く労働者層という組み合わせは中国の強みにも見えます。脱中国経済が始まっているとはいえ、アジアやアフリカの発展途上国を中心に中国との貿易はライフラインとさえいえる状況だと思います。唯一人口で互角に勝負できるのはインドだけです(経済はまだですが)。ある意味今後、中国の生産力をインドという世界最大の民主国家に移せるのか?という問は、民主主義vs全体主義の戦いの象徴にも思えます。インドはクアッド参加などで、軍事や防衛面では近年自由主義陣営に近くなっていますが、民生品では中国、原発や戦闘機、潜水艦ではロシアに依存しており今後のインドの進み方、また自由主義陣営からのインドへのアプローチは一層重要なものになってくると思います。

トッドがいう前漢の時代から続く「中国での共同体的な家族構造の登場」が何を指すのか詳細はわかりませんが、よく指摘される中華思想や中華皇帝の発想でしょうか。確かに中国は戦争と、周辺の民族が平原に入って侵略をし王朝を立てる歴史の繰り返しであり、また近代では民主主義国家を樹立することはなく、清王朝滅亡と列強の中国進出の後、現在の共産党政府が樹立されたわけで、中国の国民が真の民主主義を経験したことはありません。そう考えるなら、トッドの言っている意味もわかります。紀元前の秦の始皇帝から続く帝国、皇帝から中国共産党主席に権威が移っただけで、未だに中国では国民による選挙が一度も行われたことがないのですから。

もし今後中国で共産党政権が倒れ、民主的な選挙が行われるとしたら、それは中国という国では中華史上初の快挙となるわけです。そうなることを願いますが、トッドのいう「外婚制共同体家族」が共産主義と親和性が高いのなら、新たな形の権威主義が中国で生まれるだけなのでしょうか?

いずれにせよバイデン大統領の誕生に伴い、米国の対中国、対ロシア政策の変更やそれに対応する形で進行するであろう中国の台湾政策。バイデン政権がどう動くのか?これからもウォッチしたいと思います。

追記:ツイッターで話題になってた池上彰さんの発言で「バイデンに変わって、全く人権問題に言及しなかったトランプから変わる、云々」と言っていたらしいですが、これは私が見聞きしていた情報とは180度逆で、北朝鮮拉致問題、ウイグルのジェノサイド、香港民主化、台湾問題と全てトランプが俎上にあげたこと。そして中国制裁を強めてきた。オバマの時は中国寄りで、逆に民主党は中国に強行には出なかった。未だに日本のマスコミは民主党政権はリベラルで、世界の人権に貢献しているとか思ってるんかいな?バイデンが興味あるのはチャイナ・マネーだろ!