The Manhole オールドMacゲーム 「マンホール」

The Manhole オールドMacゲーム 「マンホール」

今回はマニアックですよ。Macの話題です。

昔、Macにマンホールという幻のゲームがあったのをご存知でしょうか。最近このゲームが簡単に遊べてしまう事を発見しました。

忘れもしない。あれは小学4年生の頃、1988年くらいの事だった。僕はMacと「マンホール」を知った。
マンホールは知る人ぞ知るミストというアドベンチャーゲームを作った、ミラー兄弟が初めて世に出したゲームだ。
このゲームをゲームと呼んでいいのか迷ってしまうのだが、内容的には、鏡の国のアリスのような不思議な世界を散策するだけと言えばいいのだろうか、謎解きとか、点数とかそういうゲーム的な物はなにもなく、ひたすら不思議な世界をクリックして移動したり反応を見るだけ、しかも画面は白黒。
でも今見ても白黒の画面の方が味があり僕は好きだ。
当時のMacはまだ白黒でグレースケールでもなく、ドットの粗い白か黒かの2値だけで、アートなりゲームなり、ひとつの世界を表現していた。この制約のある白黒の世界でどれだけの物を表現するか、という事に当時のプログラマーやアーティストも燃えたに違いない。
今のフルカラーで3Dなゲームやデジタルアートシーンよりも当時の素朴な白黒画像の方が僕は圧倒的に熱気を感じる。
懐かしさやひいき目でよく見えるとかでは無く、当時、まだ実際には大して役に立たないコンピュータそのものの可能性にみんなが夢を見ていた時代、の想いがこもってる。からだと思う。
ポエマーか⁈ いやはや脱線してしまった。

そして小学生の僕も、この白黒画面に何故かインスピレーションを刺激された。何かを感じとってしまった。当時とても高くてデザインやらなにやら色々金がかかっているMacの高級感と特別感が、今から考えればちゃちな白黒ドットの集合体を貴重な体験に変えたのかもしれない。
とにかくこの9インチのブラウン管に収まっているモノクロの世界が無性にカッコよく愛おしく儚いものに思えた。

Macは父親から教わった。
当時父親は知り合いの会社のオフィスへ仕事を手伝いに行っており、そこのオフィスにMacが置いてあるから遊びに来ないかと僕を誘ってくれた。
僕はその頃いわゆる登校拒否児で、バザーで手に入れたファミリーベーシックにハマり、ベーシックのプログラムに日がな一日夢中になっているオタッキーな小学生だった。そしてパソコンというものに興味を持ち始めたがMacがなにを意味するのかは知らなかった。
父親の知り合いのオフィスは六本木辺りの高級マンションの高層階にあり、室内は絨毯敷きでほのかな黄色い光の間接照明が室内を照らしていた。壁にはポップアートの絵が掛かり、広々とした室内のデスクの上にモニタ一体型のMacが置かれていた。
何部屋かあるようだったが、オフィスに人気はなく、マンションは静まりかえっていた。
絵に描いたようなバブリーで優雅な空間だった。バブルが弾ける直前の頃の話しである。
親父は辞書のような大きなソフトのパッケージを持ってきて、開くとそこにはフロッピーディスクが沢山入っていた。この沢山のフロッピーを何枚も何枚も気の遠くなるほどMacへ出し入れすると、ようやくゲームが始まった。

この時やらせてもらったのはシムアースやマイトアンドマジックなどで、全て白黒で英語だった。親父が英語を解説してくれながら僕はプレイした。
シムアースは地球が誕生した所から始まり、アメーバが生まれ恐竜に進化し、何故かミミズが知性を持って恐竜を滅ぼし、核戦争をして、最後に他の惑星へ勝手にみんな飛び立って行って生物がいなくなって終了した。

こんな知的なゲームをやるのはもちろん初めてで、興奮したけれども、一番印象に残ったのは「マンホール」だった。

Macの画面にあるアイコンを押しゲームを始めると、マンホールと消火栓だけがある風景、文字はなにもない。
消火栓をクリックすると水がアニメーションして吹き出し、水の中に吸い込まれ、沈没船が小さく見えてきて、いつのまにか海底の船の上にいる。気になる所をクリックする度に奇想天外な事が起こり僕はその世界にのめり込んでいった。
(久しぶりにやってみたらそんな場面はなかった、僕の記憶違いなのかそれともソフトのバージョンの違いなのか…多分前者かな。)
白黒の絵をマウスでクリックして反応を見るだけ、という今から考えれば他愛のないものだったが、不思議なアートのような世界に入りこんでしまったような感覚になり、ひどく興奮した。

昼間このオフィスに来たのに気がついたら窓の外は綺麗な東京の夜景が広がっていた。

この経験はひどく印象に残って、僕はMacが欲しくてたまらなくなり、けれども小学生の財力では買える代物でもなく、高校生になってからバイトをし、中古のMacをようやく手に入れた。マンホールを再びやってみたかったものの移り変わりの早いコンピューターの世界、数年前のマイナーな洋ゲーなど手に入るわけもなく、探してみても、リメイクされて、オールカラーの全然雰囲気の変わってしまったマンホールだけで、あの白黒マンホールはインターネットを使っても見つける事が出来なかった。

ところが、先日なんとなくグーグル先生で検索したところ、いとも簡単にみつかり、ブラウザ上で、しかもスマホの中で当時の白黒「マンホール」が動きだした。
最近、Macアーカイブという、80年代のMacのソフトやOSを保存しようというプロジェクトがあり、当時のソフトやハイパーカードのスタックなどが、無料でウェブ上で楽しめるようになっているそうな。
どうやら当時のMac Plusをウェブ上でエミュレートしてその上でソフトを走らせているらしい。
こういうのが好きじゃない人には何ともマニアックな話しで、「は?」と言う感じだろうが、なんとマンホールの次回作のコズミックオズモもプレイ出来る。テンションが上がってしまう。
とにかくこのマンホールを作ったミラー兄弟のゲームはMystといい独特の世界観で僕は大好きなのである。
いまやっても楽しめるかは知らないが、コンピュータにときめいていたあの頃を思い出してしまい、これを書いた次第なのでした。