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漫画「とめはねっ!」と井上有一「東京大空襲の書」

漫画「とめはねっ!」と井上有一「東京大空襲の書」

僕はあまり人には明かさない趣味がある。
それは漫画である。
iPhoneを手にしてから、毎日のように漫画アプリを目にしてる。
漫画が大好きなのである。

この前『とめはねっ! 鈴里高校書道部』という漫画を最後まで読んだ。
『帯をギュッとね』で有名な河合克敏氏の作品で2007年〜2015年まで連載され、『ちはやふる』に代表されるような文化部系漫画流行の先駆けとなった作品だ。
大ヒットはしなかったので早すぎた作品なのかもしれない。

正直、爽やかスポーツ路線のイメージがある作者で、あまり僕好みでないかもなぁとは思いつつ、なんとなく読み始めたが以外に面白く、おおいにハマってしまった。

内容を大まかに言うと、舞台は鎌倉。七里ヶ浜高校をモチーフにした高校の書道部の青春物語なのだが、
書道のショの字も知らない僕にとっても読み進めるだけで書道の奥深さと先人の書にかける想いに自然に触れられ、とてもタメになった。
あと中国の古典や漢字やかなの成り立ちなどの豆知識などが沢山紹介され、それもかなりツボにはまった。
そしておおいに感動した。

書道は字の上手さだけでなく、人間の魂というかなんというか、字は単なる記号でなくて、絵に近いものなんだなぁと改めて感じた次第。
字という縛りのあるアート…かな?

書道とは滲みとかカスレとかあって瞬間を記録する、究極のアナログでしか表現出来ない世界じゃないかと思う。
こうやってスマホを持ってピコピコやっていては得られない何かがそこにはある。

そして、そして、ここからが本題なのだが、
僕がもの凄く感動したエピソードがある。いや、感動という言葉では説明がつかない。
ショックを受けてしまった。と言った方がいい。
読んだあとしばらく茫然自失としてしまった。
恥ずかしながら男泣きしてしまった。

まさかこんなソフトな画風の青春漫画(悪い意味ではありませんよ)からこれだけリアルな衝撃を受けるとは夢にも思わなかった。

↓ここからはネタバレなので漫画を読みたい方はご注意。

主人公は2人いる。
一人はカナダのプリンスエドワード島からの帰国子女、日本文化に無知だがそれ故に憧れがあるガチャピンみたいな顔のおっとりとした男の子。名は大江 縁(ゆかり)

もう一人は全国制覇するほど柔道が強く、性格も男まさりでガサツで字も下手だが、実は人一倍女の子らしくなりたいと思い、せめて字だけでもと書道に励む美少女。名は望月 結希(ゆき)

縁は結希に一途な恋心を持っている。だが奥手で告白出来ない。
なにより柔道全国二位の有名人の結希と自分では釣り合わないと思っている。
ますます柔道部で名を上げる結希は先生や周りからの圧力で書道部を辞める決心をする。(かけもちしていたのだ)
縁はそれを知り、自分の想いを書の甲子園に出す作品で結希に伝えようと、作品に向かうが行き詰まってしまう。
そんな時、師匠のお爺さんから若い頃出会った凄い作品があると聞き、その作品をはるばる群馬まで見に行く。
ショックを受けて書けなくなるぞ、と止める声にも耳を貸さずに…

縁が見に行ったその作品が凄いのです。
この漫画、実際にある書が沢山出てくるのだが、この書も本当にある。

井上有一氏の
「噫横川國民學校」=(ああ よこかわこくみんがっこう)
という書である。

せっかくなので、その作品を実際に見に行った方のブログがありますので、そちらをご覧頂いたほうが凄さがよく伝わると思います。

そしてもしこの作品が少しでも気になるなら本当は漫画で、可能ならば本物を、見て頂きたいです。
伝わってくるパワーが全然違うはずです。
ていうか僕が見に行きたいです。

そしてこの壮絶な書を観て縁が書き上げた、
結希への想いを込めた書が……
もう……ピュアすぎて僕の涙腺大爆発!!
不覚にもまたまた感動してしまいました。
これは是非とも読んで下さい!!

で、この壮絶な「噫横川國民學校」を物語の佳境の一番盛り上がる部分で取り上げた、河合克敏氏の想いには頭が下がります。
本当にこの漫画には頭でっかちで説明くさい所がなく、中国や日本の古典作品や近代書道の知識の良質な所が詰め込まれている。日本や中国の文化の奥深さが、すーっと染み入るように頭と心に入ってくる。

週刊連載だと最後の方がしりつぼみになっていく作品が多い中、とめはね!はこのシーンを含む最後のほうが一番面白くて、盛り上がる。
むしろ10巻以上を費やしてこのフィナーレを語る土台作り(読者に書道を教えていた)をしていた感さえある。

本当に河合克敏先生は日本の未来まで考えて、この作品を作っているんだなぁと深くおもった。

教科書に載ってもおかしくないような正統派の少年漫画で戦争作品を載せるのは本当に尊い事だと思う。

この前僕は珍しく酒場に行き、こういう話の好きな同い年のマスターと話していたのだが、
この漫画の話しから戦争の話しになった。

「僕らって本当の戦争の悲惨さを知らないよね、
でも戦争を体験してきたじいちゃんやばあちゃんがいた最後の世代なのかも」
「あと、はだしのゲンとか水木茂とかいろんなマンガから戦争のダークサイドを教わった最後の世代になるのかもね。」

「じいちゃんに戦時中の話しよく聞かされたっけ」

この火を絶対に絶やしてはならない。
酔いがまわった頭でふとそう思った。

国家の覇権争いに蹂躙され虐殺された人々がいた事を忘れてはならない。
僕らが暮らしているこの街でも空襲警報が鳴り響いていた。そして街は燃え、人が大勢死んだ。そんな昔の話しではない。

知っているからには、こうした話しを後世に伝えていく義務がある。

「でも、僕らそういう事なにもやってないなぁ。」
「なんかそういうの、かっこ悪いってのもあるよね。」

「でも最近の日本を見てるとこのまんまじゃいけないなと思うよね」

「口ではあれが悪いこれが悪い言って盛り上がってるだけで結局僕らなにもやってなくない?」

「タマオ知ってる?何が正しいのか知ってるのに何もしないっていうのが一番の罪なんだってさ。」

「・・・・・・」

「変えてかないといけないな。」

「まず自分から変わらなきゃだね。」

ここ最近戦争を肌で知っている偉大な漫画家や小説家や芸能人などはもうほとんど居なくなってしまった。
それに合わせて何やら日本の空気も変質していったように思えてならない。

やる事は単純。こういう大事な作品を人に伝えてけばいいんだ。

この火を絶やしてはならない。

「噫横川国民学校」

アメリカB二九夜間東京空襲 闇黒東都
忽化火海 江東一帯焦熱地獄
茲本所区横川国民学校 避難人民
一千有余 猛火包囲 老若男女声なく
再度脱出の気力もなし 舎内火のため
昼の如く 鉄窓硝子一挙破壊 一瞬
裂音忽ち舎内火と化す 一千
難民逃げるに所なく 金庫の中の如し 親は愛児を庇い子は
親に縋る 「お父ちゃーん」
「お母ちゃーん」子は親にすがって親をよべ共
親の応えは呻き声のみ 全員一千折り重
なり 教室校庭に焼き殺さる 夜明け火焼け
尽き 静寂虚脱 余燼瓦礫のみ 一千難民
悉焼殺 一塊炭素如猿黒焼
白骨死体如火葬場生焼女人全裸
腹裂胎児露出 悲惨極此 生残者虚脱
声涙不湧 噫呼何の故あってか無辜を
殺戮するのか 翌十一日トラック来り
一千死体トラックへ投げ上げる
血族の者叫声今も
耳にあり
右昭和二十年三月十日未明 米機東京夜間大空襲
を記す当夜下町一帯無差別焼夷弾爆撃
死者実に十万 我前夜横川国民学校宿直にて
奇蹟生残 倉庫内にて聞きし親子断末魔の声 終生忘るなし

ゆういち

長文になってしまいました。最後までお付き合い頂きましてありがとうございます!

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