不思議な記憶

不思議な記憶

不思議な記憶がある。子供の頃、多分6才とか5才とかだと思う。

その当時引っ越したばかりで友達もいなかったので、近所のいた女の子とよく遊んでいた時期がある。今それを思い返したり、それをただあった事実だけ書いてしまうと何でもない様に聞こえるが、自分のなかではとても特別で何かを恐ろしい感覚を感じた時間だった。

その子の家は古い木造の家で、当時よく見かけた板張りで瓦屋根の大きな建物だった。当時の建物は今ほど窓もなく、外から見ると木の壁がそそり立っている様な造りだった。玄関を入ると薄暗く左側に居間、その隣に廊下が奥まで通っていて右側は庭になっていて、その右側に2階に続く階段が玄関を入るとすぐにあった。幅が広く急な階段でなんとなく2階は薄暗い感じがした。多分雨が降っていて、外は暗かったのだろう。

その家の子が「女の子ばかり5人位集まっているから、2階の部屋へおいでよ」と言って、上へ上がることを勧めてくれた。私は多分親からその子の家は知り合いだから、行っておいでと言われて出てきた様な記憶がある。

親に言われてきたものだから、何も考えずにその子の家へ向かったのだが、家について女の子しかいない、ということを言われると、なんだか急に怖くなってきて、家へ上がることに恐怖感を覚えた。「女の子だけの集まり」というのに罪悪感と恐怖感の様なものを感じて、入らずに断って帰ってきてしまった。

5,6才の子なら女子も男子も関係なく遊んでいる様な気がするが、何故そんな恐怖感とも罪悪感ともつかないものを持ったのだろうか。それは性の目覚めとかそんなことよりも、「女子と遊んでいる」と他の男子に言われることへの恐怖だった。この年齢より下の年齢の時は、女子男子と特に意識することはなかった。小学校に入る年齢になって段々と女子男子という薄い壁ができ始めた出来事なのかもしれない。男は男と遊ぶというルールが出来始めたのもこの頃だった。

しかしこの恐怖心、罪悪感というのがとても厄介で、自分では何故罪悪感を持つのかがはっきり分からないものだから、その「女子の集まり」という実際は多分すごく平和で楽しい女子児童たちの集まりに、魔女の集会の様な、悪女たちが集まる集会のイメージを持つに至ってしまった。

大人になった今でも何故その物事に恐怖心や罪悪感を持つのか?というのは日常的にはよく考えていなくて、家に帰ってからよくよく分析してみたりしないと、本当にはわからない。心のなかで恐怖心や罪悪感を持つと、とっさに起こるのはその対象に対して、悪のイメージを付けること。「それ」が悪いから、行かなかった。でも本当はただ自分の心の中で「ネガティブなイメージ」を与えているだけで、現実のものごとがネガティブな訳ではない。

そんなイメージ付けを未だに繰り返して、他人のイメージ付けを気にして、それをどうにか取り去ろうとして、逆にイメージ付けを他人しようとして、そんなループを繰り返してそれに疲れ果てている自分がいることにふと気づくことがある。

小学生には小学生のルール、中学生には中学生のルール、高校生には高校生のルール、大学生には大学生のルール、大人には大人のルール、日本には日本のルール、会社には会社のルール、あの集団にはあの集団のルール、この集団にはこの集団のルール、俺には俺のルール、お前にはお前のルール。

誰が作ったか知らないが、そんなルールが山ほどある。それを覚えるのがまず一番最初の仕事。それを知らないと、そこでは息も出来ないから。