夢の家
- 2018.06.03
- エッセイ
家を失った。
思いえがいていた夢の家。
僕は嫁の実家で親御さんと同居しているが手狭なため新しい家を探していた。
そして運よく、とても素敵な家を近所に見つけた。
庭は一面広い芝生で、大きな木が三本、桜やブルーベリーが立っていて、広々としたウッドデッキが一階と二階それぞれ付いていて、バーベキューが出来るようウッドデッキには炊事場まで完備されていた。
近所にあるので早速見に行き、気にいったので、6歳の息子を連れ翌日歩いてまた見に行った。
息子もとても気に入り、その日から「いつになたったら新しいお家にすめるの?」とたびたび言うようになった。
もちろん不動産屋にはすぐ買う旨を伝え 簡単な書類も交わした。
自分も家の事をあれこれ想像し、新しい家に住んだ家族の生活を毎日思いえがきながら生活していた。
値段もこれだけの家にしては安かった。
ただ貧乏症の自分がいた。
もともとの値段が安いと思ってるのにもかかわらず、不動産屋に「値引き交渉します?」と聞かれた時、少々の値引きを要求した。仲介だし、今まで自分が家を売った経験からもそれが妥当だろうと思った。後日売り主が僕が言った値段より10万円高い値段で返答したときも、躊躇してしまい、即決出来なかった。決めるのがなぜか面倒で後回しにしてしまった。
ようやっと決断し次の日返事したら、「先程売り主から連絡があり不動産屋を通さず定価で買うと言っている知り合いに売ることにしたそうです」といわれた。末期のガンで余命も少なく、なかなか売れないからしびれを切らしたそうだ。
不動産屋はしきりに謝っていた。
夢が消えた。
なぜ返事をするのにこんなに考えてしまったのかわからない。
あれだけ気に入った家だったのに。
庭は子供が駆け回って、サッカーができる程広く、ウッドデッキはバーベキューパーティーが出来る程豪華で、キッチンにはオーブンが付いていて、子供部屋となおかつ自分の部屋と、隣の家は離れているからギターも気兼ねなく弾ける、、あの時すぐにその金額で買いますといえていれば、、。もう少し早く返答の電話をしていれば、、、。
恥ずかしい話であれから何日か経つがどうにもショックで、自分と家族があの家でおくるはずだった生活の事ばかり考えてしまう。
有りもしない生活がなぜか失われたように感ずる。
とらぬタヌキの皮算用と言ってしまえばそれまでだが、なんだか物凄い喪失感である。
あんな家はもう二度と近所には出て来ないだろう。
あれから何故か息子は家の事を口にしなくなった。
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