猫様

NO IMAGE

ぼくは猫町を知ってる。知っているというか、今そこにいる。
猫町では人間は猫に支配されていて、猫のためにあくせく働いている。猫は何にもしない。ぼーっと人間が働く様を、気持ち良さそうに眺めている。人間は猫様にくつろいでいただき、おいしいご飯を召し上がっていただく事に喜びを感じて生きている。
僕は人間なので今この町であくせく働いている。日の差さない薄暗い部屋の中で汗を流して歯を食いしばりながら働いている。おなかが痛くなるくらい働いている。仕事に没頭しすぎて嫌になってくるとたまに窓越しに外を見る、猫様がひなたでくつろいでいらっしゃる。ニャーと鳴いて澄み切った目で僕を見つめていらっしゃる。
この町の掟でこういう時の猫様にはご飯をあげなくてはいけない。僕は手をゆっくり洗ってから、用意しておいたお肉を差し上げる。猫様はゆっくりと食べ始める。
その光景を眺めているだけで、僕は仕事の疲れも忘れ、猫様ってホントにかわいいなぁ、と思って、ニコニコしてしまう。
で、満足して、また仕事を始める。

それにしても、僕は猫なんて好きでもないはずなのにどういう訳だろう。こんな事もあった。
猫様がちかずいてくるので、なでてやるとゴロゴロと喉の辺りから妙な音を出す。最初はへんな音だと思っていったけど、最近それを聞かないと落ち着かなくなってしまった。聞いてるとなんだかこっちまで気持ちよくなってくるのだ。でもこれは錯覚でホントに気持ちいいのは猫様なのだ、猫様の気持ちよさを想像して、僕は気持ちよくなってしまう。今では寝る前の儀式としてその音を聞いてからでないと安眠出来ない。
猫様は人間を操るすべを心得ているようだ。でも、操られている僕も結構それで満ち足りていたりする、、、まずいかな、僕ももうこの町の住人になりきってしまったようだ。
退屈なこの町にはたくさんの猫様がいる。そこら中の路地、そこら中の家の中。猫様はいつでもゆったりと優雅に暮らしている。
僕たちは毎日あくせくと暮らしている。春がきたけどなんにもかわらない。いつでも必死、いつまでも働く。
僕は猫様がうらやましい。